あたしの心、人混みに塗れて
ちょっと外に出てくると言った蒼ちゃんは、なぜかあたしを連れ出した。


「蒼ちゃん、どこに行くの? まだ帰らないでしょ?」


既に日が暮れかけていたから、蒼ちゃんは一晩泊まってから帰るらしい。


「赤ちゃんグッズの店、近くにあったよね」

「……うん」

「ベビー服買うの。出産祝い」


蒼ちゃんがあたしの方へ向いてへへっと笑った。


「そんな、蒼ちゃん、気を使わなくていいよ」

「気なんか使ってないよ。俺が赤ちゃんにプレゼントしたいの」


それじゃあ、だめ? と聞いてきた蒼ちゃんを止める気はなかった。ただ、ちょっと申し訳ないなとは思ったけど。


「……ありがと」

「俺ね、ともからともママが妊娠したって聞いたときから決めてたの。赤ちゃんが生まれたらベビー服あげようって」


「俺のわがままだよ」と笑う蒼ちゃんはどこまで優しい男なのだろうか。


「ていうか、それだったらあたしは必要なかったんじゃ」

「んー、なんとなくそういう店って男一人じゃ入りづらいなって思って。俺の子供じゃないし。ともとだったら若い夫婦に見えるでしょ?」


蒼ちゃんは今日一日でどれだけあたしの心を乱すのだろうか。やめてほしい、天然でそんなことを言うなんて。


あたし達には未来があると錯覚させられる。


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