あたしの心、人混みに塗れて
「すごーい。いろんな種類があるねえー」


ところ狭しと並べられたベビー服を見て、蒼ちゃんは顔を綻ばせた。


「うわ、見て、とも、袴の形してる。おもしろーい」

「蒼ちゃん、間違ってもこういうミツバチとかはやめてね」

「うわあ、可愛い。赤ちゃんにコスプレさせるのって一種のプレイだよねえ」

「……なんの話よ」


蒼ちゃんは一つ一つ手に取って面白そうに見ていた。あたしはそんな蒼ちゃんを後ろから眺めた。


確かにいいパパになりそうだな。子供好きだし、面倒なことも子供のためならって喜んでやってくれそう。


いいな、と思った。蒼ちゃんの未来の奥さんを羨ましく思った。それが誰かはその時にならないとわからないし、今嫉妬してもしょうがないけど、それでもそう思わずにはいられなかった。


やだな。妬んじゃって、情けない。あたしは絶対幸せになれないタイプだ。


だめだ、泣きそう。このところ涙腺が弱くて困る。


「ね、とも、赤ちゃんの身長っていくつ?」


不意に蒼ちゃんが振り返ったから、あたしは慌てて歪めた顔を元に戻した。


「えと……生まれた時は52センチ」

「それって、新生児の中ではどうなの?」

「大きい方だって。あたし達兄弟みんな50センチ超えてたんだって」

「そうかあ。じゃあ、ちょっと大きめのやつがいいか」


蒼ちゃんはシンプルだけど可愛らしい水色の細いボーダーのベビー服を買った。


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