あたしの心、人混みに塗れて
プレゼント用にラッピングしてもらったベビー服は母さんに渡されて、母さんは満面の笑みを浮かべていた。


「まあ、ごめんね、蒼大くん。わざわざ」

「いえ、俺が買いたかったんです。迷惑でなかったら赤ちゃんに着せてあげてください」

「すごく嬉しいわ。ありがとう。さっそくこの子に着せるわね」


母さんはお礼にと双子が買ってきたという焼き菓子を差し出した。


「ところで母さん、赤ちゃんの名前ってもう決めてるの?」


生まれてまだ二日目だけど、自分の弟を赤ちゃんと呼ぶのになんとなく違和感を感じた。


「生まれる前から決めてたわ。父さんにはまだ内緒だけど」


母さんは笑って、鞄からメモ用紙とペンを取り出してさらさらと書いた。


『奏也』


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