あたしの心、人混みに塗れて
11月も終わりとあって、二時間も店に入り浸っていたあたし達の前には真っ暗な空が広がっていた。


「寒いねー……」

「もう冬だね」


あたしが自分のコートに手を入れようとすると、昌人がその手を掴んで自分のコートのポケットに突っ込んだ。


「あったかいなー」

「昌人、好きだよね、これ」


ふふっと笑うと、「智子もね」と笑い返された。


ポケットに入れられた手が異常に熱い。


好きな人とのスキンシップは好きだけれど、半年経った今も緊張してしまう。


あたし達は近くの公園に寄った。


「智子、明日土曜日だし、俺ん家に泊まってかない?」


そう言う彼の頬は寒さとは関係なしに赤かったと思う。


「……ごめん。まだ、ちょっと…………」


あたしが歯切れ悪く答えると、昌人は寂しそうに眉を下げた。


「そっか。…………なあ、智子」

「なに?」

「明日、俺ん家来いよ。ちょっと、話そう」


昌人がどんな話をしたいのかは、あたしは既にわかっていた。


「……わかった」


昌人に嫌われたくない。でも、怖い。


相反したこの気持ちを、あたしは言えばいいのだろうか。


悶々とした気持ちを抱えて、あたしは頷いた。


首をわずかに縦に振ったあたしの唇に、昌人の唇が重なった。


「じゃ、また明日」


昌人とはいつもこの公園で別れる。


公園を出ていく昌人の背中を見送って、あたしは唇に残る熱の感触にただ茫然としていた。



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