あたしの心、人混みに塗れて
休日はいつも通り昼過ぎにのろのろと起きた。


部屋着のまま適当にご飯を作って食べていると、テーブルに置き手紙があるのに気付いた。


『デートに行ってきます』


語尾にはしっかりハートマーク付き。


すぐにセフレのもとに行ったのだと理解した。デートなんて書いてあるけど、セフレと会ってやることなんか一つだろう。


何がデートだ。ただのヤリチンのくせに。


あたしは寝起きが悪い。小さい頃や反抗期なんかは、あたしの部屋に来てわざわざ起こしてくれた蒼ちゃんを怒鳴り散らすこともあった(その度に蒼ちゃんはニコニコしながらあたしを宥めてくれたけど)。それほど機嫌が悪くなる。


でも、今日の機嫌の悪さは寝起きのせいではなかった。自分でわかっていた。


嫉妬しているのだ。はっきりと。


自覚すると共にさらにイライラしてきた。


いくら一緒に住んでいようが、恋人達がするようなキスをしようが、誕生日プレゼントをもらおうが、あたし達の関係は幼なじみであって、それ以上でもそれ以下でもない。あたしが勝手に蒼ちゃんを男として見ているだけだ。勝手に舞い上がって勝手に落ち込んで、あたしは痛い女だ。


どうせ、今頃蒼ちゃんは美人を抱いて、自分だけ満足しているのだろう。こっちの気なんて知りもしないで。セフレにあんな光景を見せつけられて、こんな手紙を置いていかれて、あたしが内心穏やかでいられるとでも思ってるの?


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