あたしの心、人混みに塗れて
テーブルに目をやると、あたしはその上に置いてあるものを手当たり次第壁に投げつけた。化粧ポーチ、手鏡、置き時計、スマホ、化粧水、空のペットボトル、電子辞書、DVD、ドライヤー、ヘアアイロン、制汗剤、財布、ティッシュボックス、ボールペン、ブラシ、文庫本、…………。


それでもイライラは収まらない。すべてを壊してやりたいという狂暴的な思考が脳を支配する。頭の中が真っ赤に染まる。


脳裏に過ぎるのは、先日目の当たりにした、蒼ちゃんとセフレの女とのキスシーン。


あたしはあの女を知らない。名前も、素性も。ただ千晶から聞いただけ。そんな女に蒼ちゃんを取られるなんて。自分のふがいなさと、あの女の図々しさに腹が立つ。


蒼ちゃん蒼ちゃん蒼ちゃん蒼ちゃん蒼ちゃん……………………。


テーブルにはまだ残っていたものがあった。ガラスのコップと100均で買ったマグカップ。


あたしはそれらを手に取ってフローリングに叩き付けた。正気ならば思わず耳を塞ぎたくなるような音が部屋に響く。一度叩きつけただけではコップは粉々にはならない。あたしはまだ原型が残っている欠片を拾って何度もフローリングに叩きつける。あたしの手でコップは少しずつ破片へと姿を変えていく。


その欠片が広がるフローリングの上にポタポタと液体が零れる。


……水?


そんなものを気にしている余裕はなかった。もうコップの原型を留めていない、欠片としか言いようがないガラスを手にとって腕を振り上げた。


「とも!!」


真っ赤に染まる世界の中で、耳元でつんざくように届いた声を聞いた。


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