あたしの心、人混みに塗れて
腕を掴まれて振り向くと、そこには険しい表情を浮かべた蒼ちゃんがいた。


なんでいるの?


あたし以外の第三者の人間が現れたことで、真っ赤な世界はあたしの中からするすると引いていった。


蒼ちゃんはあたしの手の中から透明なガラスを外して、黙って立ち上がらせた。


ぼんやりとされるがままになっていると、蒼ちゃんの部屋に連れていかれて、ベッドに座らせられた。


「手、手当てするから」


蒼ちゃんに言われて手の平を開いてみると真っ赤な血がべっとりとついていた。傷付いたのだと自覚したら、思い出したように手の平が痛み出した。


蒼ちゃんの部屋には薬や手当てをするための医薬品が一通り揃えてある。蒼ちゃんは引き出しから消毒液と絆創膏を取り出して、消毒液をティッシュに染み込ませた。


「痛そう……」


蒼ちゃんが低く呟いて、あたしの手の平を撫でるように拭き始めた。時々ぴりっとした痛みが走って思わず顔をしかめる。


傷は切り傷だった。割れたコップの破片を掴んだからそれで手を切ったらしい。一番大きい傷は手の平の真ん中で、横に一直線に走ったような傷だった。


「さすがに絆創膏には入らないな……ガーゼ貼るよ」


蒼ちゃんはガーゼを適当な大きさに切って傷口に当てた。それから白いテープで固定。


あたしはその間蒼ちゃんにされるがままだった。なんだか全身が怠かった。このまま動きたくなかった。


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