あたしの心、人混みに塗れて
「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い………………」

「とも……?」

「嫌い嫌い、蒼ちゃんなんか嫌い、蒼ちゃんなんか大嫌い!!」

「ちょ、とも」


いったん止まった涙がまた溢れ出してきた。泣きじゃくりながら「嫌い、嫌い」と譫言(うわごと)のように繰り返すあたしの両腕を蒼ちゃんが掴んだ。


「いや!!」


あたしは力いっぱい蒼ちゃんの手を振り払おうとしたけど、意外にも強い力で握られていて逃れられなかった。


そして、脳裏に蒼ちゃんがあの女を抱く光景が浮かんでぞわっと悪寒がした。


「セフレを抱いたその手であたしに触らないで!!」

「え……」


蒼ちゃんの拍子抜けた声を聞いて、自分を最低だと思った。こんなこと、優しい蒼ちゃんに一番かけてはならない言葉だ。


でも、あたしの口はどんどん最低なことを吐き出していく。


「セフレがいるくせにあたしに触らないで。セフレで満足できるなら、あたしにキスなんてしないで。そんな汚い手で、汚い体で、あたしに触らないでよ!!」


泣きじゃくるあたし、黙り込む蒼ちゃん。


蒼ちゃんから離れようとするあたしと、その腕を離そうとしない蒼ちゃん。


蒼ちゃんの顔は見れないけど、きっとひどく傷付いた顔をしているだろう。それだけひどいことをあたしは言った。そんな顔をあたしは見ることができない。それを見てあたしもきっとまた泣きそうになるだろう。そこまでずるい女になりたくはなかった。


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