あたしの心、人混みに塗れて
「泊まってくればいいのに。ほんと、ともってガード固いよねえ」

「なんでよ。初めてなんだからしょうがないじゃん」


「ていうか、初めてなのに、誘われるがままにホイホイ彼氏の家に泊まる女の方がどうかしてるよ」と言って、あたしはじとーっと蒼ちゃんを睨みつけた。


「だってとも、断るのこれで26回目だよ。半年で26回とは……うーん、栗山(くりやま)くんも相当我慢してるよねえ」


「ほぼ週一のペースだなあ」と、どこか楽しそうに呟く蒼ちゃんの真意がわからない。


ていうか、あたしが断った回数を数えていたのか、目の前の一歩間違えばオカマに見られる男(悪口)は。


栗山は昌人の苗字だ。


「てか、相当溜まってるよねー。いざともが許したら、見境なく襲われるよ、絶対」

「ちょっと、今ご飯中」


味噌ラーメンのスープを吹き出しそうになったのを必死に堪えて再び蒼ちゃんを睨みつける。


「そういうもんだよ、男って」

「じゃ、蒼ちゃんも?」

「それはどうでしょうー」


蒼ちゃんははぐらかすのもうまいのだ。


蒼ちゃんは、あたしの悩み相談係だ。


何かあったらすぐに蒼ちゃんに報告する。例えそれがとても異性には言えないような生々しい話題であってもだ。


それが昔からのあたし達の関係であるし、昌人を好きになったことも、昌人と付き合うことになったことも、昌人との初めてのキスも全て蒼ちゃんに報告した。


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