あたしの心、人混みに塗れて
次の日、あたしは筑前煮を作りながらぼんやりと考えていた。


頭に思い浮かぶのは、昨日の蒼ちゃんの、唇を重ねた後の色っぽい表情。


昨日は余裕がなくてそんなこと考えられなかったけど、今思い出してみると、瞳が潤んでいてわずかに唇を開いた蒼ちゃんはなんて色気があるのだろうとしみじみ思う。


あたしが泣いていなかったら、あの色気に犯されてもいいと思ってしまいそうなくらい…………って、あたしは一体何を考えているんだ!


急に恥ずかしくなって、あたしはお玉で鍋の縁をガンガンと叩いてしまった。


だめだ、そんなことを考えてはいけない! あたしこれから心臓もたなくなる!


「ともお、ただいまあ」


ガチャッと玄関のドアが開いた音がしたかと思うと、バタバタと足音が聞こえてきて、後ろから抱きしめられた。


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