あたしの心、人混みに塗れて
「蒼ちゃん」

「んー?」

「動けないから離してくれないかな」

「やだ。今充電中」


蒼ちゃんは後ろから抱きしめたままあたしの肩に顔を埋めて息を吸い込んだ。


「んー、ともの匂いがするぅ……」

「授業出ただけでしょ。何をそんなに疲れたの?」

「俺が別れようって言ってもなかなか了承してくれなかったんだよ、理央」


蒼ちゃんのため息混じりの声にあたしはああ、と理解した。


めんどくさいやつか。


「一年半くらい関係を続けてたから、まあお互い依存してた部分があったんだろうね。俺はともがいるからすぐに切れたけど、あっちは好きな人いないって言ってたから、余計にね」


あたしは味噌汁をかきまぜながらたぶん依存ではないだろうと心の中で蒼ちゃんに反論した。おそらく、理央って子も蒼ちゃんが好きなのだろう。


蒼ちゃんみたいな優しくてイケメンの男に一年半も抱かれていたら、最初はなんとも思わなくても、次第に惹かれていくのが女ってものだろう。その子もたぶん例外ではない。現に、蒼ちゃんと理央って子の間には明らかにセフレ以上の親密な空気を感じたのだから。


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