あたしの心、人混みに塗れて
それから二人で食べた夕ご飯は昨日より気まずい空気が流れていた。


あたしが悪いのに、たった一言が出てこない。


悪いとは思っている。頭の上に罪悪感という漬物石みたいな重りがのしかかってくる感じがするくらいには悪いと思っている。


でも、あたしは何も口に出せなかった。昔からそうだ。蒼ちゃんと喧嘩して明らかにあたしが悪くて、あたし自身が悪いとはわかっていてもごめんという一言が言えずに、全部蒼ちゃんから謝ってくれた。その現場を見た母さんからはよく怒られた。


意地っ張りというか、不器用というか、素直じゃないというか。あたしは昔から何も変わっていない。


ちらちらと何度も向かい側の蒼ちゃんの様子伺うけど、蒼ちゃんは黙々と食べてあたしと目が合うことはなかった。こんな状況は昔からあったから、蒼ちゃんももう慣れているのかもしれない(気まずい雰囲気に慣れるって、あたしには絶対無理だ)。


蒼ちゃんに気付かれないくらい小さくため息をついた。


ほんと、あたしって救いようがない。


昨日の方が幸せに満ちていた。付き合う前の方が幸せだったなんて思ってしまう。なんて最低な女。


筑前煮は少し味が薄かった。


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