あたしの心、人混みに塗れて
お風呂に入って部屋のベッドの上でうとうとしていると、蒼ちゃんが部屋のドアから顔を覗かせた。


「とも、髪乾かさないと風邪引くよ」

「……ん」


ゆるゆると立ち上がってドライヤーを持つと、蒼ちゃんが部屋に入ってきた。


「乾かしてあげようか?」

「……ん」


眠かったから蒼ちゃんにドライヤーを渡して任せることにした。


大きい音が部屋に響いてあたしの髪の毛が巻き上げられる。


蒼ちゃんの指があたしの濡れた髪に絡まる。髪を撫でられる感触にあたしは気持ち良くてまたうとうとし始めた。


あたしの髪の毛は長いから乾くのに時間がかかる。10分ほど乾かし続けてようやくドライヤーの電源が切れた。


「とも、乾かし終わったよー」


蒼ちゃんの声が近くで聞こえたけど、あたしは睡魔に負けてそれに答えなかった。目をつぶって次第に意識が薄れていく。


このまま夢の世界に飛び立…………


「そんなに無防備だと、襲っちゃうよ」


耳元で低い声が鼓膜を震わせて、あたしは一気に目が覚めた。慌てて目を開けると、口元を手首で押さえながら蒼ちゃんが笑っていた。


「付き合ってるんだから、それくらいのこともしちゃうかもよ、俺」

「ちょ……」


蒼ちゃんの言葉に耳まで真っ赤にさせるあたしを見て、蒼ちゃんはまたくすくすと笑っていた。


「ともってほんと照れ屋だよねー」なんておもしろそうに言われても、こっちは困る。


……あ、色っぽい。


風呂上がりの蒼ちゃんは、髪こそ乾いているけど頬がまだほんのりと紅潮していて、男らしい色気を発していた。


こんなものを見せられたら、大抵の女は確実に落ちるだろう。


「とも、さっきは傷付いたよね」


不意に蒼ちゃんがあたしの頭に手を置いて顔を覗き込んだ。


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