あたしの心、人混みに塗れて
「……ともって、ばかだよねえ」

「……悪かったね」

「そうじゃなくて」


はあ、と蒼ちゃんがため息をついてあたしの頭から手を離した。そして、あたしの頬に指を滑らせた。


「そんなこと言われたら、求めてって聞こえるんだけど」


心なしか蒼ちゃんの声が低くなった気がした。それにわずかに掠れている。


「だめだよそんなこと言っちゃ。俺、勘違いしちゃうよ」

「……いいよ」


頬を撫でる指がぴたりと止まった。


「……とも、そんなこと言っちゃだめだって」

「キスして。蒼ちゃん」


うわああああ。言っちゃったああああ。


引かれただろうか。あたしがそんなことを言うなんてとドン引きされただろうか。


本当に恥ずかしい。今までの人生の中で一番恥ずかしい。もうお天道様に顔向けできない。


「ばかとも」


腰をぐっと引き寄せられて、ギリギリのところで止められた。お互いの顔が近くて二人の息遣いすら聞こえてきそうな距離だ。


「そんなこと言われたら止まらないから」


いつもよりかなり低い声で囁かれて、荒々しく唇を塞がれた。


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