あたしの心、人混みに塗れて
千晶が連れてきたのは構内にあるカフェだった。お昼時を過ぎていたから店内は空いていて、あたしはアップルパイ、千晶はチーズケーキを買って二人で向かい合わせになって座った。


「千晶、なんで経済棟にいたの?」

「まあ、風の知らせ?」


ふっと微笑んだ千晶は今まで見てきた中で一番大人な表情だった。


「それよりも私が気になるのは」


大人らしい表情から一変、千晶はじとーっとあたしを睨みつけた。


「川島くんと付き合ってること、なんで私に教えてくれなかったのよ! 私、あの子が叫んでるの聞いて初めて知ったんだから!」

「ち、千晶、ボリュームボリューム」


いくら空いているとはいえ、あまり他人に聞かれていいものじゃない。


千晶は紅茶を飲んでため息をついた。


「そりゃね、近いうちに二人が付き合うとは思ってたから予想通りよ。別に驚かない。でも、ずっと智子の話を聞いてたのは誰? 私は智子にとってどうでもいい存在だったの?」

「違うよ、そんなんじゃない」


絶対そんなんじゃない。千晶は親友だ。この地で一人でいたあたしと仲良くなってくれた、唯一無二の親友だ。


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