あたしの心、人混みに塗れて
「昨日の夜ねえ、夢見たの」

「なんの?」


あたしが聞くと、蒼ちゃんは目を開けてあたしを見てきた。


「ともが消える夢」

「……はあ」

「比喩じゃなくて、ほんとに突然消えたの。俺の目の前にいたのに、煙みたいにぱっと消えちゃって。どこを探しても見つからなくて、10年後くらいにあの時死んでたって風の噂で聞くの」

「……勝手に殺さないでよ」

「それで、なんか猫の話を思い出してさ」

「猫?」

「うん。猫って、自分がもうすぐ死ぬってわかると飼い主の前から姿を消すんだって。飼い主を悲しませずにこっそり死ぬんだって」

「はあ……」

「で、とも=猫って結論がついて目が覚めた」

「いや、あたしを猫にしないでよ」


あたし、猫みたいに可愛くないよ。あそこまで気まぐれでもないよ。


「ははっ。それでさ、それで目が覚めたらまだ2時過ぎだったわけ。まあ、ともの部屋にこっそり入って一緒に寝るよね」

「いや、蒼ちゃん、当たり前みたいに言ってるけど、明らかにおかしいからね。そこで裸になる意味もわかんないからね」

「まあ、襲おうっていう下心がなかったわけじゃないからねー」

「…………」


あたし、下手すりゃ寝込み襲われてたってこと?

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