あたしの心、人混みに塗れて
「あー……とものばかあ」

「は?」

「不意打ちで抱き着くとかずるいわあ」

「……はい?」

「だからさ」


呆れたように蒼ちゃんがため息をついて、服の中に手を忍び込ませた。


「ちょっ…………」

「本気で襲いたくなるって言ってんの」


蒼ちゃんの指が体のラインをなぞる感触に体がびくりと震えた。


「蒼ちゃんっ、やめっ……」

「無理」


蒼ちゃんの指がだんだん上がっていく。


その指にあたしの体の奥がギュッと熱を孕んでいく。


このまま、流されてしまいそう。


抗うべきかどうかと悩んでいたら、耳元で急に電子音が鳴った。


「で、電話っ!!」


あからさまに反応して、蒼ちゃんの腕から無理やり逃れた。


慌ててベッドの上に置いておいたスマホを手にしてベッドから出る。


「も、もしもし! ……え? 妹? あいにくあたしには妹はいません。は? お姉ちゃんもいませんけど、何か?」


オレオレ詐欺の電話の相手をしているあたしの後ろで、蒼ちゃんが「オレオレ詐欺撲滅してやる……」と低く呟いたのを、あたしは聞いていなかった。



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