あたしの心、人混みに塗れて
「まあ、いいんじゃない? 千晶ちゃんがいれば安心だし。これでともの友達が増えれば文句なしだし」

「……蒼ちゃん、あたしが気にしてること知ってて言ってるよね」

「ははっ、冗談だってー」


けらけら笑う蒼ちゃんを尻目にあたしは部屋に戻ってメイクを始めた。


下地を塗って、ファンデを塗る。眉を整えて、アイラインを入れる。アイシャドーを塗って、ビューラーで睫毛を上げてからマスカラを塗る。仕上げに赤い口紅を塗れば完成。


マスカラは重ねていないし、アイシャドーは薄めに塗ったからケバくない。ぱっと見、ちょっとだけ化粧をしたとわかる程度にしておいた。


それからヘアアイロンで髪をストレートヘアにした。


服を着替えてバッグを肩にかけて、玄関でパンプスに足を突っ込んでいると、蒼ちゃんが部屋から出てきた。


「でも、やっぱり心配だなあ」


壁にもたれ掛かって、腕を組んで少しだけ眉をひそめてあたしを見ていた。


「なんで心配なの?」

「自分の彼女が他の男に取られないかって考えて心配しない男はいないよー」

「ないない。あたし、蒼ちゃんみたいにモテないから」

「モテなくていいよ。でも、その集団の中の一人にでも好かれたらって思ったらもうその男殺したくなるね」

「大丈夫だって。飲み会でそんなこと経験したことないから」


でも、一回だけでいいから口説かれてみたいと思ったのは口にしないでおく。


「まあいいや。俺のものって印はちゃんと付けてるし」

「そうだね」


あたしの胸元には相変わらず蒼ちゃんがくれたラピスラズリのネックレスがついている。


「じゃ、なるべく早めに帰ってくるから」

「いってらっしゃい」


もう少し引き止められると思ったけど、蒼ちゃんは壁にもたれ掛かったままあたしに手を振っていた。


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