あたしの心、人混みに塗れて
「まあ、そういう感覚は人それぞれだからねえ」


蒼ちゃんが笑って、ご飯をかきこむ。


「男は早く彼女とやりたい生き物なんだよ。だから、どうしても早い段階で誘っちゃう。栗山くんに最初に誘われたのは、けっこう早かったでしょ?」

「まあ、キスも早かったし……」


昌人との初めてのキスは、付き合ってから一週間経った日で、今考えたらかなり早かった。それからほどなくして、昌人からセックスの誘いが始まった。


そう考えると、あたしはよくもそんなに拒み続けているなと罪悪感に苛まれる。


こんなに断られてもなおめげない昌人は、実はかなり強い男なのだと思う。


「でもさ、女の子はやりたいばかりで付き合っている人ばかりじゃないでしょ。ともだって、やりたいから付き合ってるわけじゃないんだよね」

「そりゃそうだよ……。ただ、好きなだけだし」


蒼ちゃんに言われて、あたしはちょっと想像してしまった。


昌人とあたしが裸になるの? 体を触られるの? そして、………。


む、無理無理無理っ!!


ほんの少し想像してみただけで、顔から火が出るくらい恥ずかしい。


昌人の裸なんて、想像した瞬間、そんなことを考えてしまった自分をぶん殴りたくなった。


「ともって、意外にウブだよねえー」


蒼ちゃんは笑顔のまま、あたしの頬に手を伸ばした。


温かい手が火照った頬を余計熱くさせた。


「失礼だね、蒼ちゃん」

「まあ、とものペースでいいと思うよ。少しずつやってけばいい」

「ん」

「まあでも、怖いからって食わず嫌いはいけないと思うけどねえ」

「……はい」


まずは一歩踏み出せってことですね。


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