あたしの心、人混みに塗れて
「ただいまー……」


それから3時間もしないうちに、あたしは家に戻ってきた。


飲み会自体は2時間で終わって、その後は各々2次会に行ったらしいけど、あたしは千晶の誘いを断ってさっさと帰ってきた。


玄関に入っても何も物音がしないことに内心拍子抜けしながら家に入る。


蒼ちゃんが玄関で待ってて抱き着かれると思っていたからかなり予想外だ。


蒼ちゃん、もう寝ちゃったのかな。


でも、まだ10時前だ。それとも風呂かな。


台所に寄ってコップに水を汲んで飲んでいると、後ろから人の気配がした。


「とも、帰ってたんだ」


お風呂上がりなのか、髪を湿らせた蒼ちゃんが立っていた。


「蒼ちゃん、ただいま」

「お帰り。早かったね」

「早めに帰ってくるって言ったでしょ?」

「とも、あんまり約束破らないタイプだもんね」


蒼ちゃんがあたしの頬にそっと触れた。


「飲んだ?」

「少しね」

「顔色変わってないからびっくりした」

「あたし、特殊なときじゃないと悪酔いしないもん」


あたしはそこまでお酒は好きじゃないから、普段からあまり飲まない。


まあ、その特殊なときとは、今のところ蒼ちゃんと行った飲み会の時だけだけど。


「どうだった?」

「楽しかったよ。みんないい人達で、あたしに気使ってくれた」

「へえ」

「もちろん、口説かれなかったよ」


真面目な団体はそもそもそういうために飲み会をしているわけじゃないから、当たり前といえば当たり前だ。


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