あたしの心、人混みに塗れて
部屋に戻ると、蒼ちゃんが後ろから着いてきた。


「……どうしたの?」

「や、ともがそんなにメイクするの珍しいから」

「そうかな。そんな変わんないと思うけど」

「……誰のため?」

「え?」


蒼ちゃんがあたしに近づいてくる。あたしは思わず後ずさりしていた。


「男にいい印象持たせたかったの? 彼氏は家にいるのに?」

「蒼ちゃん、ちょっと……」

「そんな着飾ったともを他の男が見たって思っただけで腹立つんだけど」


蒼ちゃんは真顔だった。いつもニコニコしている蒼ちゃんじゃない。あたしはいつの間にか壁に背をつけていた。そのあたしを至近距離で蒼ちゃんがじっと見つめる。


「わかんない? ほんとは行かせたくなくてたまんなかった」

「ちょっと蒼ちゃん、落ち着いて」


機嫌が悪いことは明らかだ。でも、こちらにもちゃんと言い分はある。


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