あたしの心、人混みに塗れて
唇を押し付けられたあたしは途端に思考が止まった。


全身が硬直して蒼ちゃんにされるがままになる。


荒々しく唇を塞いだのに、まるで焦らすようにゆっくりとあたしの上唇を甘噛みした。蒼ちゃんの左手が右腕を掴んで壁に押し付ける。


甘噛みされる感触にどくりと鼓動が高鳴る。全身が内側から熱くなっていく。


熱い舌で唇をなぞられると、体が勝手に震えた。まるで口紅を落としているように執拗に舐められた。


「蒼、ちゃん……やめっ…………」

「うるさい」


あたしの訴えは即座に却下された。腕を掴んでいた手が外されて体が壁から逃れたと思ったら
、肩を掴まれて横のベッドに投げ出された。


いくら怒ってるからって、そんな扱いはないんじゃないか。そう口にしようと思ったとき、蒼ちゃんがあたしの上に覆いかぶさってきた。


「そ、ちゃ…………」


怒っている。それはわかる。でも、それ以上に何かが違う。目の前にいるのは蒼ちゃんなのに、蒼ちゃんじゃない。


蒼ちゃんの顔から表情が読み取れなくなっていた。怒り、妬み、苛立ち、呆れ、哀れみ、同情、………………どれを取ってもしっくりこない。


──キミハダレ?


背筋に悪寒が走った。


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