あたしの心、人混みに塗れて
「そういえば蒼ちゃん」

「何ー?」

「なんでピアスの穴塞いだの?」


あたしが蒼ちゃんの右耳に触れると、「くすぐったいって」と蒼ちゃんがくしゃりと笑った。


右耳もやはり穴は一つしか残っていなかった。


「んー……」と口をつぐんだ蒼ちゃんは言うべきかどうか迷っているようだ。


「ともと付き合ったから……かな」

「え?」

「俺がピアスを開けた時期、覚えてる?」

「大学入ってからすぐでしょ?」

「正確には、ともが栗山くんと付き合ってから」

「……はあ」


蒼ちゃんがあたしの髪をゆっくりと撫でていた。


「俺ね、ともが他の男と付き合ってかなり傷付いたんだよ。知らないでしょ?」

「そりゃあ……」

「だから、自棄になってセフレを作って、ピアスも開けた。自傷行為に近いかもね」

「…………そう」


全然気付かなかった。あの時のあたしは蒼ちゃんのことを全然見ていなくくてピアスもいつのまにか開いていたから、若気の至りかなとか思っていたけど、全然違ったんだ。


セフレの件だって、あたしだけが傷付いているとばかり思っていた。でも、実際は蒼ちゃんが一番傷付いていたのだ。


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