あたしの心、人混みに塗れて
──もっと、触れて。


そう口にした。


あたしは裸だ。そして、あたしの上にいる男も裸だ。


男の顔は見えない。でも蒼ちゃんだとすぐにわかる。


蒼ちゃんがあたしの唇に口づける。蒼ちゃんの唇がゆっくりと下りていって、首筋に吸い付く。それから胸元。


蒼ちゃんの手が全身を這う。触れる度に体の奥がギュッと締め付けられる。熱を孕んで、痛いくらいだ。なのに、不快じゃない。


──とも。


蒼ちゃんが耳元で囁いてあたしの鼓膜を震わす。耳たぶにキスされると、心臓がどくりと鼓動を鳴らす。


なんて満ち足りた気分なのだろう。


幸せだ。


蒼ちゃんと一つになることがこんなに幸せなんて思わなかった。


あたしは快楽に身を委ねる。蒼ちゃんがあたしの上で笑った気がした。


──ねえ、蒼ちゃん。


──誰、それ。


あたしの上の声が急に変わった気がした。


え?


蒼ちゃん…………?


閉じていた目を開ける。あたしの上の男の顔を凝視する。


あたしは思わず叫んでいた。


そこには、にっこりと笑った昌人がいた。


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