あたしの心、人混みに塗れて
「うわああああっ!!」


自分の声で目が覚めた。飛び起きる。


夢の声と現実の声は違う。夢の声は脳に響くだけだけど、現実の声は鼓膜に直接響いて一気に現実に引き戻す。


「……夢?」


口にして、夢だったことを確かめる。


視線をこらすと、自分の部屋だ。服もちゃんと着ている。


あたしは額に手を当てて思わず大きなため息をついた。


なんて夢だ……。


時計を見ると、昼の2時半。どうやら昼寝をしてしまったらしい。


大きく息を吸い込んで肺まで息を届かせる。それから大きく吐き出した。


「とも、どしたのお?」


あたしの声を聞いたらしい蒼ちゃんが部屋のドアから顔を覗かせた。


「いや、嫌な夢見ちゃって……」

「ふうん」


まさか、蒼ちゃんに抱かれていたつもりが昌人だった夢だなんてとても言えない。


昌人には悪いけど、とても嫌だ。


忘れてたのに。なんで今更夢に出てくるかな。


それにしても、抱かれる夢なんて。欲求不満なのだろうか。


確かに蒼ちゃんと付き合って3ヶ月経ってもまだだけど(未遂は何回かあったにせよ)。ここまで自分が欲求不満なのは自覚がなかった。


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