あたしの心、人混みに塗れて
「……蒼ちゃん」

「んー?」


小首を傾げながら蒼ちゃんはあたしを見ている。


なんで、蒼ちゃんは最後までしないの?


なんて聞いたら、今度こそドン引きされるだろうか。


まあ、ドン引きされるくらいには欲求不満だけど。


でも、セフレはあっさり抱いて、あたしはなかなか手を出さないなんてやはりおかしくないだろうか。


あたしは、蒼ちゃんになら抱かれたいと思っている。昌人には最後まで許せなかったけど、蒼ちゃんになら大丈夫と思っている。


蒼ちゃんと、もっと深いところまで繋がりたい。そう考えるだけであたしの体は僅かに熱に疼いている。


でも、最後までしないってことは、蒼ちゃんは違うのだろうか。あたしとはしたくないというサインなのだろうか。


あたしには女としての魅力がないのだろうか。


……まあ、確かにあたしは顔も性格も可愛くないし、胸もなければスタイルがいいわけでもないし、男性経験もないに等しいし、女としての魅力なんて皆無だけどさ。


自分の出で立ちの悪さにため息が漏れても仕方ないだろう。


嫌だな、どんどん被害妄想に陥っていく。


「……なんでもない」


あたしは蒼ちゃんから目を逸らした。


蒼ちゃんに笑顔で魅力なんてないと言われたらもうあたしは立ち直れないだろう。今の蒼ちゃんならそんなことも言いかねない。あたしは自分を守ることで精一杯だった。


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