あたしの心、人混みに塗れて
「ねえ千晶、初めてっていつだっけ?」

「17のときだけど……いきなり何?」

「……いや、みんな初めてって付き合ってからどれくらいでやったのかなあって思ったから」

「そんなの人それぞれでしょ。私は2ヶ月でやったけど……智子達は今どれくらいだっけ?」

「もうすぐ3ヶ月」

「普通じゃない? 別におかしいとは思わないわよ。逆に付き合って一日でやりましたって方が軽いでしょ。それだけ川島くんも考えてくれてるんじゃないの? 一年経ってもやらなかったらそれは問題かもしれないけど」

「そういうもんなのか……」

「智子、欲求不満なの?」


千晶に言い当てられて、あたしはうぐっと息を詰まらせた。


「この変態」

「……あたしも最近自覚しました」

「栗山くんのときは絶対したくないって言ってたのにね」

「それが謎で」

「簡単なことでしょ。栗山くんのことは男として見れなかっただけの話よ」

「……そうなのかな」

「それとも何? 栗山くんと付き合っていながら川島くんのことをずっと思ってたんじゃないの、とでも私に言って欲しいわけ? そんなの、傍から聞いたら偽善者にしか聞こえないけどね」


あたしは蒼ちゃんのキスを思い出していた。昔から蒼ちゃんとキスをすると気持ちが落ち着いた。嬉しくなって、少し恥ずかしい。それは昌人とキスをしても感じなかった気持ちだ。


「……そうかも」


あたしはきっと、蒼ちゃん以外の男のことなんか全然見ていなかったのだ。きっと見ていたふりをしていた、偽善者なのだ。


「あんた達ってほんと一途よねえ」


千晶は呆れた笑みを漏らして、「そろそろ行くわね」と席を立った。


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