あたしの心、人混みに塗れて
「怖い、みたいです……」


次の日、あたしは昌人の家でゆっくりと話し出した。


昌人は一人暮らしで、いかにも学生向けな部屋に住んでいる。


「みたいって」


昌人はくすくすと笑った。


くっそう。ばかにしてるな。こっちは必死だと言うのに。


こういうことは話さなきゃわからないって蒼ちゃんに言われたから、頑張ってるのに。


「……笑わないでよ」

「ごめんごめん。続けて」

「昌人とするのが嫌とか、そんなんじゃないの。ただ、あたしは、昌人と付き合うまでそういうことに縁がなかった人だから……」

「つまり、男とそういうことをするってこと自体が未知数ってこと?」

「…………うん」


昌人に言わせてしまって、申し訳ない気持ちになった。


それでも穏やかな表情を崩さない昌人は優しい男だと思う。


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