あたしの心、人混みに塗れて
会うなり「川島さんを一目見た瞬間から運命だと感じたんです!」と言われたらしい。彼女がいると告げて断ると、「私は諦めません! 川島さんとは結ばれる運命なので!」とか言ってその場を去ったらしい。


「すごいねえ、その子。実際そんなこと言う人なんているんだね」

「俺もびっくりしたよ。そんな告白の言葉があるとは思わなかったね」

「じゃあ、他の子にはなんて言われたの?」

「んー? 大抵は好きですとか付き合ってくださいじゃない? ……あ、一個思い出した」

「何?」

「『川島くんのすべてを満たせる自信があります』って言われたことあるよ」

「……何それ」

「普通に考えて、セフレになろうと思ったんじゃない?」

「…………」


あたしは何も言えずに、アップルパイを口いっぱいに頬張った。


この男、なんか腹立つ。


「……で、蒼ちゃんはその子と一切面識はなかったわけでしょ?」

「当然。ともはどう? 運命って信じる?」

「別に。運命の赤い糸が小指についてるとかそんなんでしょ? あほくさ」

「じゃ、信じるのは俺だけってこと?」

「蒼ちゃんだけじゃないけどね」


一人で三分の二ホールを平らげたあたしは、紅茶を一気に喉に流し込んだ。


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」


あたしは幸せな気分になって、ベッドに寝転がって目をつぶった。


腹が満たされると眠くなる。


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