あたしの心、人混みに塗れて
お鍋の食材とその他必要なものを買って会計を済ませた。レジ袋一つで事足りたけど、蒼ちゃんはそれをさりげなく横から奪った。


「……ありがと」

「これくらい当然っしょ」


今日の夕食がお鍋と決まってから、蒼ちゃんはすこぶる機嫌がいい。


蒼ちゃんの少し後ろを歩いていると、不意に蒼ちゃんが振り向いた。


「疲れた?」

「全然」

「俺の隣は嫌?」


蒼ちゃんの表情が少し曇って、やっぱり身長のことを気にしてるのかなあと思った。


「まさか。蒼ちゃんの後ろがいいの」

「そうなの?」


蒼ちゃんの後ろ姿を見ていたいと思ってずっと見ていたら、蒼ちゃんは気になったらしい。


「理由は後で話すから」

「ここじゃ話せないの?」

「恥ずかしいの」


まさか、蒼ちゃんの後ろ姿も好きだなんて変態じみたことを外じゃとても言えない。恥ずかしい。


「言えばいいじゃん。誰も聞いてないし」

「それでも嫌なの」

「じゃ、手は繋いでいい?」


言うや否や、蒼ちゃんはあたしの手を取って歩き始めた。


「とも、手冷たい」

「蒼ちゃんはあったかいね」

「小さい頃からそうだったよね」

「そうだっけ?」

「うん、ともは昔から冷え症」

「よく覚えてるね」

「覚えてるよ。とものことはみんな」


くすっと笑った蒼ちゃんは自分の指をあたしの指と絡ませた。


「ふふっ、恋人繋ぎ。外でやってみたかったんだ」

「……そ」


嬉しそうに笑う蒼ちゃんとは対称に、あたしは何となく恥ずかしくて俯いたけどたぶん蒼ちゃんには嫌ではないことは伝わっただろう。


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