あたしの心、人混みに塗れて
「俺とのキスは、嫌じゃない?」

「嫌では……ない」


これは本音。


「でも怖いからって、このままじゃいけないってこともわかってる………」


「じゃあ……」


あたしが俯いていると、昌人の顔がすぐ傍まで近づいて、あたしの顔を覗き込んでいた。


「次のステップ、いってもいい?」


次……つまり、ディープキス…………。


こんなに早く言われるとは思っていなかった。


蒼ちゃんが言っていたように、男ってやっぱりやりたいのかな。


昌人はそんな人じゃないと信じたかった。


でも、あたしがここで立ち止まっていても、何も始まらない。


昌人にも嫌われたくない。


「智子が思うほど怖くないよ。俺に任せて」


昌人の手があたしの頬に触れる。その手はわずかに湿っていることに気付いた。


……緊張しているのかな。昌人が?


あたしはわずかに頷いていた。


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