あたしの心、人混みに塗れて
ああ、痛い。


あたしはベッドに潜り込んでひたすら寝ていた。本来ならば授業に行かなければならないのだけど、あまりに腹が痛くて起き上がれないのだ。鎮痛剤を飲んだけどまるで意味なし。


生理痛でこんなに苦しむのは初めてだ。何が起きているんだ、あたしの体は。


蒼ちゃんに触るなと言った次の日、あたしは更に生理痛がひどくなっていた。こういうときこそ蒼ちゃんに傍にいてほしいけど、一度言ったことを今更撤回するのは難しい。


痛みにうずくまり、いつのまにか寝ていて、気付けばお昼を過ぎていた。


お腹はすいている感覚がある。でも、全身がしんどくて何か食べたいとはとても思えない。


「とーも、ただいまー」


どうしようかと頭を巡らせていると、蒼ちゃんが部屋のドアを開けて顔を覗かせた。


「どう、具合は」

「最悪です」

「珍しいねえ。生理痛で休むなんて今までなかったのに」

「自分でもびっくりしてるよ」

「なんか食べた?」

「食べれません」

「それでも何かしらは口に入れないと。あ、今日豆腐の味噌汁だよ。とも、好きでしょ?」

「……豆腐」


なんだか急に食べたくなってきた。あのつるんとした喉越しと柔らかい弾力の白い塊を思い出したら、食べられそうな気がしてきた。


「……食べたい」

「わかった。ご飯は?」

「……いらない」

「うん。じゃ、温めて持ってくるからちょっと待ってて」


蒼ちゃんは笑って部屋を出て行った(実は豆腐は生理痛にいいらしいとあたしは後になってから知った)。



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