あたしの心、人混みに塗れて
12月24日。クリスマスイヴ。


何かあるわけでもないけど、やはり少しだけ心は弾む。


窓の外の雪を一瞥して、あたしはゆうべ仕込んでおいたタンドリーチキンをオーブンに入れた。その隣では蒼ちゃんが泡立て器でボウルの中の生クリームを泡立てている。


「ね、まさかチキンだけで終わらないよね?」

「あたしを誰だと思ってんの。今日はオムライスと野菜スープです」

「うーん、なんか微妙な組み合わせ……ピザが食べたかった」

「まさかあたしが生地から作れと? タンドリーチキンの仕込みだけで苦労したあたしが?」

「ごめんごめん。俺が悪かった。ちょっと欲を出しました」

「宅配頼むなら蒼ちゃんの自腹だからね」

「もう、とも、拗ねないでよ。ともの手料理ならなんでも好きだからさあ」


あたしは蒼ちゃんを無視してご飯を入れた鍋の中にケチャップを乱暴に搾り出した。それから炒めておいた玉ねぎとにんじんのみじん切りを入れる。


別に話し合ったわけじゃないけど、去年のクリスマスから料理はあたし、ケーキは蒼ちゃんが作ることになっている。プレゼントをいちいち用意するのはめんどくさいから、それぞれの料理がクリスマスプレゼントだ。これだけの料理を作るだけでも学生のあたし達にとってはけっこうな出費なのに、それにプレゼントを用意しろなんていくらなんでも無謀過ぎる。下手したら年を越せない可能性だって出てくる。


誕生日にプレゼントを渡しているし。


ロマンがないと言われてもこれが現実なのだから仕方ない。あたしが買った方がいいと言っても蒼ちゃんは絶対ケーキは作ると言い張るから、こちらも何か作って返さなければと思うのは自然なことだ。


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