あたしの心、人混みに塗れて
「じゃ、いただきます」

「どうぞ」


テーブルにはあたしが作ったタンドリーチキン、オムライス、スープが乗っていた。質素だけれど、味はそこまで悪くないはずだ。


「あ、うまっ」


タンドリーチキンを一口食べた蒼ちゃんがペロッと唇を舐めた。


「うまくできてる。昨日苦労したかいがあったね」

「ならよかった」


あたしも一口食べてみる。自分で作ったわりには上出来だ。


「去年も二人で食べたよね。ともが栗山くんに振られる寸前でさ」

「やだ、そんなこと覚えてんの?」

「とも、やけ食いしてたもんね。俺の分まで肉食べちゃって」

「もう、恥ずかしいから思い出させないでよ」


くすくす笑う蒼ちゃんが自分の指を舐めた。それがなんとも色っぽく映って、あたしは直視できなかった。


確実に、蒼ちゃんは大人になっている。


成長できていないのはあたしだけか。


「とものオムライス、なんか今日ケチャップの味が濃いんだけど」

「あ、ごめん。入れすぎたかも」

「別にいいけど。ともってご飯作るのめんどくさい時必ずオムライスだから慣れてるよね」

「失礼な。今日は気合い入れて作ったのに」

「だったら、普段めんどくさい時にオムライスは作らないでください」

「だってこの家、卵常備してあるから」

「当然。お菓子作りに卵は欠かせないからね。いざ作ろうって思ったときに卵足りないときあるからほんと困るよ。大抵はともがオムライス作った後なんだよね」

「オムライスおいしいじゃん」

「おいしいよ。でも、これからは控えてください」

「えー、あたしの得意料理なのに」

「もうちょいレパートリー増やしたら?」

「蒼ちゃん、褒めるか説教するかどっちかにして」

「ふふっ、ともをいじるの楽しい」


含み笑いを浮かべて蒼ちゃんはオムライスを口に入れた。意地悪な笑みとも取れる。


蒼ちゃんはたまにドSだ。普段は優しいと思ったら突然違う側面が出てくる。万華鏡のようだ。


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