あたしの心、人混みに塗れて
蒼ちゃんはあたしの料理を綺麗に平らげた。その上「やっぱ足りない」と言い出して白米をお代わりする始末だ。


自分の作った料理を食べてもらえるってすごく幸せなことだ。


「ごちそうさまでした。うまかった」

「お粗末様でした」

「じゃ、ケーキ取ってくるね」


蒼ちゃんが立ち上がった後あたしも食器を持って立ち上がった。ケーキ用の皿とフォークを持って冷蔵庫からケーキを取り出す蒼ちゃんの手元を覗いたら、「こら、見るなー」となぜか怒られた。


「今年も頑張ったよー」


蒼ちゃんが自信ありげにテーブルに乗せたケーキはブッシュ・ド・ノエルだった。蒔をかたどったロールケーキだ。


「わ、可愛い」


チョコレートクリームの茶色で覆われた表面は木目がちゃんとあって、粉砂糖で雪が降ったみたいにわずかに白くなっている。上には「Merry Christmas!」と書かれてあるチョコレートのプレートと、サンタとトナカイのマジパンがちょこんと乗っている。


「プレートとマジパンはさすがに買ったけどね」

「蒼ちゃん、そこまでできちゃったらもう職人だよ」

「でも、それ以外はちゃんと作ったもんね」


蒼ちゃんが言うように、昨日のうちにロールケーキの生地を焼いておいたのはあたしも隣でタンドリーチキンの仕込みをしていたから見ていた。


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