あたしの心、人混みに塗れて
「二人でホールケーキはちょっときついでしょ? ロールケーキなら食べられるかなって」

「じゃあさっそくいただきます」


いくつかに切り分けて、あたしは一口食べてみる。


「ん、おいしい」


あたしは満面の笑みを浮かべた。


蒼ちゃんが作ったお菓子はいつでもあたしを笑顔にしてくれる。


ロールケーキには薄く切ったイチゴが挟んであって、チョコレートクリームの甘味を邪魔していない。甘ったるいクリームを少しだけ抑えるようにほんのちょっとだけ主張しているところがいい。


「よかったあ」

「蒼ちゃんも食べなよ。おいしいよ」

「うん。クリーム甘くない?」

「甘くなかったらクリームじゃないでしょ。ちょうどいいよ。これならいくらでも食べれちゃう」


あたしはあっという間に皿の上のケーキを平らげて大皿の一切れに手を伸ばす。本当にいくらでも食べられそうだ。


「俺ね、ともが俺の作ったお菓子食べた時の笑顔が一番好き。すごく幸せそうなんだもん」

「幸せだよ。蒼ちゃんが店出したら毎日通うよ」

「出す気ないけど」

「それに比べたら蒼ちゃんてあたしの料理食べてるときも表情あんまり変わんないよね。いつもニコニコしてるから余計に」

「ともがいつも笑わないからいざ見せるとすごく幸せそうに見えるんだよ。俺はいつも幸せなの」

「そりゃあ、よかったね」

「あ、もちろんともの手料理も好きだよ」

「慌ててフォローしなくてもいいよ」

「もう、拗ねないでよ。俺いつも褒めてるでしょ」


本当はしかめっつらをしてやりたかったけど、蒼ちゃんのケーキがおいしくて苦笑みたいな笑い方をしてしまった。


その隙に蒼ちゃんの分のケーキまで奪おうとしたら「そこまで食べたら太るよー」と笑われたからやめた。


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