あたしの心、人混みに塗れて
やっべええええええええ。


ガチンと固まってその場からうごけなくなったあたしを、蒼ちゃんは怪訝そうな顔で見つめてくる。


「……俺の部屋になんか用?」

「い、いや、あの、その……」


混乱して頭が回らない。蒼ちゃんになんて言えばいいのかわからない。


風呂上がりの彼女がタオルを巻いただけの格好で自分の部屋にいたら、そりゃあ不審に思うだろう。誤解されても仕方ない。


どうしようどうしようどうしよう。絶体絶命。目の前に穴があったら地球の裏側に今すぐ行きたい。


「ご、めん……」


何も言えずに、あたしはその場から立ち去ろうとした。とりあえずこの状況を打破したい。逃げたい。落ち着け、あたし。


「こら、逃げんな」


蒼ちゃんの横をすり抜けようとしたら、蒼ちゃんに肩を掴まれた。剥き出しの肩に蒼ちゃんの熱い手が触れて、そこから体がカッと熱くなる。


ますます何も言えなくなったあたしに、蒼ちゃんが瞳を向ける。


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