あたしの心、人混みに塗れて
この出来事は、もしかしたら神様が、思いが強すぎて仕方ない彼女を思って与えたチャンスなんじゃないかと、あたしは密かに思っている。


まあ、そんなもので済むならなぜ蒼ちゃんに被害が及んだのか、という疑問が残らなくもないけど。


年末をお互いの実家で過ごして、あたし達は年明けに二人の家に戻ってきた。


「なんか、今更だけど」


あたしの部屋でくつろいでいた蒼ちゃんがぽつりと呟いた。


「実家に戻ると、親兄弟がいるわけじゃん」

「……うん」

「それでこの家に戻ってくるとさあ、なんか俺達いけないことしてるみたいでなんか面白い」

「……面白いの? 罪悪感感じるところじゃない?」

「なんか、おかしいなって。親達には言ったからほんと今更だけど」


帰省中、蒼ちゃんはいきなりあたしの家にやってきて、父さんにあたしと付き合っていることやキス以上もやったことを話したという(その場にあたしはいなかったから蒼ちゃんの話を聞いただけだけど)。父さんはしばらく黙ったままだったけど、最終的には「智子をよろしく頼む」と言ってもらえたらしい。


その話をした蒼ちゃんの頬は少し腫れていたから、一発殴られたなと察したけど、蒼ちゃんはいつも通りニコニコしていたから言わないでおいた。


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