あたしの心、人混みに塗れて
目が覚めたとき、あたしは蒼ちゃんのベッドの上だった。寒いと思ったら裸で、昨日のことを思い出した。


隣では蒼ちゃんがすやすやと眠っていた。


蒼ちゃんの茶髪に朝日が差し込んでキラキラと光っていた。


あたしは布団に潜り込んで蒼ちゃんの髪に触った。柔らかい。


「……ごめん、とも」


そっと片目を開けた蒼ちゃんがあたしを捉えた。


「起きてたの?」

「今、起きた」


ふっと微笑んだ蒼ちゃんがあたしの背中に手を回して引き寄せた。


「無理させちゃったね。体、平気?」


蒼ちゃんの手が腰まで下りてゆっくりと撫でた。


その手つきは単純に触れているだけで他意はないとわかっているから、あたしは抵抗しない。


「ん、大丈夫」

「昨日ね、ここに帰ってくる直前に絡まれて喧嘩しちゃったからさ。その時の高ぶったやつがまだ抑まってなくてさ」


喧嘩した直後の男に近づいちゃいけないんだよ、と蒼ちゃんはニヤリと笑ってみせた。


「昨日ので十分思い知りました」

「よろしい」


ふと、蒼ちゃんの唇の端の固まった血に目が行った。あたしはそれに触れた。


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