あたしの心、人混みに塗れて
「蒼大があなたと付き合う前、私は蒼大のセフレでした。その時から私は蒼大が好きでした。でも蒼大は常々言ってました、『俺はともが好きだから』って。だから私が告白した時も一切応じなかった。そして、あなた達が付き合った時、関係は即解消されました。私も忘れようと思いました。叶わないとは最初からわかっていたから、すぐに諦めはつきました」


鳴海さんは、空を仰ぎながら一気に言い放った。


あたしは俯いて地面に穴が開くくらいじっと見つめるしかなかった。心臓の鼓動が頭の芯にまで響いて痛い。


「一度は諦めました。そして、蒼大が幸せなら、相模さんと付き合っても構わないと思いました。実際、私に別れを切り出したとき、蒼大は幸せそうに笑っていました。私を振ったのに何その笑顔、とは思いましたけど」


うん、鳴海さんの気持ちすごくよくわかる。


蒼ちゃんは時々、その人が一番残酷だと思うことを平気でやってのける。


「その時は諦めました。そして、同じ時期に他の男に告白されたのでその人と私は付き合い始めました。まあ、これは私が悪いんですけど……」


鳴海さんはちらりとあたしを見た。その瞳には、決して明るくない色が映っていた。


鳴海さんもあたしと同じように悩んだのかな。なぜかふとそう思った。


「これは私のせいです。ごめんなさい」

「えっ? い、いや、あの、えっと、その…………どういうことですか?」


あたしに向かって頭を下げた鳴海さんに、あたしはあまりに予想外、というより正直拍子抜けしてあわあわと慌ててしまった。


あたし自身、謝られることは何一つしていない。むしろあたしが鳴海さんに謝りたい。


頭を上げた鳴海さんは、ゆっくりとその口を開いた。


「私は今も、蒼大に抱かれてます」


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