あたしの心、人混みに塗れて
「蒼大とは一度関係は解消しました。でも、その後私が付き合った男は手を出すのがすごく早かったんです。えと…………変な意味じゃなくて、殴ったり蹴ったりするってことなんですけど」


普通に話しているだけなら、全然そんなことをするような人には見えない優しい人なんですけど、と鳴海さんは呟いた。


「最初に私に手を上げたのは付き合って一月も経たない頃でした。意見の食い違いがあってお互い折れなくて、カッとなった彼が私の頭を思い切り叩いたんです」


それだけ聞いただけでも、あたしは思わず息を飲んでいた。


「その時はすぐに彼も謝ってくれました。でもそれからまたすぐに殴られました。半年くらいまでは黙って耐えてたんですけど、その頃蒼大に頬が腫れてることを指摘されて。隠そうと思ったんですけど、言っちゃったんです。そしたら、それはDVだって蒼大に言われて」


なんでそんなに耐えてたんですか。なんで半年も誰にも言わなかったんですか。


あたしだったら、一ヶ月も経たずに耐えられなくなる。たぶんその時点で別れを選ぶかもしれない。


そう口に出そうとして踏み止まった。言ってしまったら、鳴海さんの傷をえぐることになる。鳴海さんの口から出ることを待つことにした。


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