あたしの心、人混みに塗れて
「自棄でもあったんです」


鳴海さんがふっと弱々しく笑った。その顔には傷は全く見られなかった。なんとなくほっとする。


「罰が当たったんだろうなって。蒼大が相模さんを好きだと知っていながら迫って無理やり関係を持った罰。蒼大は優しいから、人を無下にできなくて私との関係をずるずると引きずっていた。私はそれに甘えていた。それが彼からの暴力によって返ってきたんだろうって。自業自得だって。仕方ないと思ったんです。だから、彼と別れるのはその罰から逃げることだと思って別れなかったんです」


あたしは唇を噛み締めていた。


すごく責任感が強いのだと思う。自分の気持ちに正直な分、責任を感じやすい。自分のしたことにそこまで責任を感じなくていいのにと思うほどに。


あたしなんかより、ずっと人としてできている。


「だから蒼大に話した時も、そんなに怒らなくてもいいと思いました。蒼大ってば、すごい怒ったんですよ。なんで今まで誰にも相談しなかったのって。なんでそこまで自分が悪いって決めつけるんだって」


そうだろうと思った。蒼ちゃんのみならず、その話を聞いた人なら誰でも怒るだろう。もっと自分を大事にしろと怒るだろう。自分をそこまで犠牲にする必要はないのだと。


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