あたしの心、人混みに塗れて
「その日、私は彼と会う約束をしていました。私はいいって言ったんですけど、蒼大が着いてきたんです。そして、彼と会うなり私と別れろと迫りました。逆上した彼は蒼大を殴って、蒼大も殴り返して、喧嘩になりました。私にはどっか行ってろって言って」


あたしはふと思い出した。初めて喧嘩をしたと言って帰ってきたあの日。


「蒼大はしばらくして私の元にやってきました。怪我をしてたから手当しようと、一緒に私の家に行きました。私はやましいことは一切考えてなかった。私の中で、蒼大とのことは既に終わらせていたから。…………でも」


鳴海さんの口から、それ以上聞きたくなかった。


これ以上聞いたら、発狂しそうだった。


いくら鳴海さんが傷付いて、いくら蒼ちゃんは正しいことをしたとしても、仮にもあたしは「まだ」蒼ちゃんの彼女だ。


やはり、知らない方がよかったと、あたしは後悔をする。


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