あたしの心、人混みに塗れて
鳴海さんと別れた後、あたしはフラフラと家に帰った。


部屋に入って、母さんに電話をかけて「今から帰る」とだけ伝えて、スマホをベッドに投げた。


必要なこと以外は今は何も話したくない。


それから、キャリーケースを押し入れから引っ張り出した。服を小さく畳んでひとつずつ入れる。


押し入れには段ボール箱がいくつかあった。あたしはそれらを出して、部屋にある本や雑誌、必要な書類などを詰めた。必要だと思ったものは案外少なくて、あまり大きくない段ボール二つで済んだ。


掃除機を持ってきて、部屋の隅々まで綺麗に掃除した。ほこりひとつ落ちていないように、丹念に掃除機をかけた。


不要なものやゴミを大きいごみ袋に入れて、テレビやテーブルや本棚は雑巾で丁寧に拭いた。ごみ袋は四つほどになった。


気付くと部屋は閑散としていた。いらないものを捨てて、身辺整理をしただけで仮住まいはこんなにも容易く寂しくなる。


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