あたしの心、人混みに塗れて
「蒼ちゃん……ごめん」


蒼ちゃんの腕から逃れて、ぽつりと呟いた。


「いいよ、全然。あーあ、ひっどい顔」


「メイクどろどろになってるよ」と、いつ取りに行ったのか、蒼ちゃんがメイク落としのシートで丁寧にあたしの顔を拭いた。


「ごめんなさい……」

「こんなんじゃ、栗山くんの前じゃ泣けないね、ともは」


ふふっと笑った蒼ちゃんは、撫でるようにあたしのメイクを落としていく。


他の女でやったことがあるのかと言いたくなるくらい手慣れている。


「まあでも、ともにしては頑張ったよ」


「はい、綺麗になったよ」と言って、あたしのメイクがごっそり取れたシートをごみ箱に放って捨てた。


「……ほんと?」

「うん。だって、怖いって言ってたディープキスをちゃんと受け入れたんだよ。すごい進歩じゃん」

「そうかな……」

「押し倒したのは栗山くんが悪いね。たぶん、ディープを受け入れられたから嬉しくなって、止まんなくなっちゃったんだと思う」

「と、止まんなく…………」


顔に熱が篭るのを感じた。


なんだかすごく恥ずかしい。


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