あたしの心、人混みに塗れて
『勝手に出てって蒼大くんはどうするのよ。ていうか、自分のあっちの住まいはどうするわけ?』

『探す。なるべくあの家から遠い場所に』


そこでようやく涙が溢れてきた。唇を噛み締めて、だから協力してと母さんに頼み込んだ。


この時の母さんは、普段の調子のいい母さんではなくちゃんとした親の顔だった。


『あんたねえ、母さんも暇じゃないのよ。奏也の世話もあるし、ちんたら家を探してる余裕はないのよ』

『部屋は一日で決める。働いたら、お金は返す…………だから、お願い。もう、蒼ちゃんと顔も合わせたくない』


そう、新しい部屋を借りるにはまとまった時間と金がどうしても必要だ。母さんに迷惑がかかることは重々承知していた。それでも、もうこれ以上一緒にいたらひきこもりになりかねないと思った。授業どころではない。


『まあ、あんた達の同居は、大人の事情が大きいからねえ……』


娘を安易に他人と一緒に住まわせるべきじゃなかった。そう思ったのかもしれない。


『あ、でも、あの家の家賃はこれからも払うからね。川島家だけに負担かけさせるわけにいかないから』

『最初から、そのつもり。それも、あたしが返すから』


自立していない子供達が一緒に暮らすべきではない。面倒ごとになったとき、親に負担がかかるからだ。


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