あたしの心、人混みに塗れて
「蒼ちゃんの隣にいるべきなのは、あたしじゃない」


あたしの隣にいるべき人は、蒼ちゃんだったけどとは口にしなかった。


20年間一緒にいたのに、あたし達はこうも交わらない。


「蒼ちゃんは、一番大事な人の傍にいてあげて。そこにあたしは必要ない」


むしろ、あたしが邪魔者。


結論はこうも簡単だった。


目をつぶってきたことは、口にしてしまえばこうも容易く崩れ去る。


「お金のことは、こっちから蒼ちゃんママに謝る。蒼ちゃんは今まで通り、その家で暮らして」

『…………とも』

「母さんにも既に話してある。もうあの家には戻らない」


戻りたくても、戻ることは許されない。


「……………………ばいばい」


さようなら、最愛の君。


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