あたしの心、人混みに塗れて
あたしは感謝しなければならない。


ほんの少しでも夢を見られたのだから。


どうしてこんなことに、と自分の置かれている立場を嘆いてはならない。


真逆なあたし達が出会って、仲良くなって、好きになって、束の間でも幸せだった。


まさに奇跡としか言いようがない。


あたしと出会ってくれてありがとう。


あたしと仲良くなってくれてありがとう。


あたしのことを一番に理解してくれてありがとう。


あたしの一番近くにいてくれてありがとう。


あたしを好きになってくれてありがとう。


20年間あたしは幸せでした。


あたしにとって、蒼ちゃんは自分の一部だった。なくてはならなかった。なくては残りの自分は生きていけない。


でもそう思っていたのはあたしだけだった。蒼ちゃんはそうじゃなかった。


蒼ちゃんの世界は広い。少なくともあたしよりは確実に。その広い世界で蒼ちゃんという人間は作られている。


その蒼ちゃんを形作るものの中に、もしかしたらあたしもいたかもしれない。でも、あたしほど大きくはない。いくつもあるうちの一部。仮に壊れたとしても、他の何かで修復できる。


それがいけないというわけじゃない。むしろ、あたしの方が悪かったと思う。あたしの中で蒼ちゃんが大きすぎた。それゆえに依存しすぎていた。


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