あたしの心、人混みに塗れて
大学に行くたびに、蒼ちゃんを思い出した。


この敷地内に蒼ちゃんもいるのに、こうも会わなくなるとは思わなかった。


朝の横断歩道の前、授業中、構内を歩いている時、講義を聞いている時。


蒼ちゃんの顔や声を思い出しては、もうあたしの隣にはいないのだと自分に言い聞かせる。


経済棟の前の、青々と葉が生い茂る桜の木を眺めては、青い空を仰いだ。


そういえば、蒼ちゃんの「蒼」は草木が生い茂る方の「あおい」の意味もあったなあとふと思い出した。


好きな色は? 小さい頃、蒼ちゃんに聞いたことがある。小さい子の、何でも知りたいという好奇心から聞いたことだった。


『ぼくはね、あおがすき! 名前のそうはね、そらがあおいって意味のあおなんだよ!』


蒼ちゃんの漢字にはそういう意味も込められているんだ、と納得した記憶がある。


まあ、あながち間違ってもいないけど。いろいろな意味があるから、あの漢字には。


あたしは何て答えたのだろう。蒼ちゃんのその答えだけが記憶に残っていて、自分が何色が好きと言ったのか覚えていない。赤か黄色か緑か、蒼ちゃんに負けじと原色を言った気もするけど。


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