あたしの心、人混みに塗れて
いつも蒼ちゃんのことばかり考えている。考えて何かが起きるわけでもないし、外にいる時に泣くことはないけど、少しだけ寂しいと思う。


15年以上前の、ただ蒼ちゃんが大好きだった頃に戻れたらいいのにと思った。戻れなくても、あの時の気持ちのままいれれば、少なくともこうして離れずに済んだ。


離れたのはあたしの方なのに、なんて未練がましい。


それでも好きという気持ちは変わらないから仕方ない。蒼ちゃんを好きだという気持ちは薄れるばかりか増す一方だ。


そして、今のこの気持ちはきっと蒼ちゃんには伝わらないだろう。仮に今この場で伝えられるとしても、他にも蒼ちゃんを好きな人はたくさんいて、そんな人達が自分の気持ちを伝えようとすれば、あたしは圧倒されて伝えることを拒むかもしれない。


離れてしまえば、あたしの気持ちなどすぐに人混みに紛れて消えてしまう。ただ、あたしが蒼ちゃんに限りなく近くて、あたしはそれを利用していたのだ。


贅沢だったな、と今では思う。蒼ちゃんを好きならば誰でも羨むだろう。そして今のあたしも、過去の自分を羨んでいる。


蒼ちゃん…………。


『とも』


青空に蒼ちゃんの呼ぶ声を思い出した。そして、すぐに消えていった。


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